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カマンベールなんて、欲しくない? (1)

cheese

カマンベール・ド・ノルマンディ(AOP)<再投稿>

カマンベール・ド・ノルマンディ(AOP)の形状は、円盤形。直径10.5cm~11cm。高さの規定なし。それでも通常は、およそ3cm。ウェイトは、250g以上。さすがに、「チーズの女王」たる呼び名にふさわしいだけあって、どうどうたる貫禄がある。表皮が白カビたっぷりだと、熟成は若い。好みにもよるが、真んなかのかたくボソッとしたチョーク状の芯(シン)がほぼなくなり、トロリと、ツヤのあるペースト状になったころが、コクもあり、味わいも、風味も、最高だ。

「カマンベール村って、こんな小さな村だったんだ」
ほとんどが農地といってもいいくらいのノルマンディ地方。起伏のある丘がつらなっていて、そんな丘の上のひとつ、ヴィムーティエ村から、およそ5kmのところ。それが、とってものどかなカマンベール村。

南ノルマンディには、チーズをつくる村々をつなぐ、チーズの道なるものがある。英仏海峡沿岸のドーヴィルの町、「ポン=レヴェック」がスタート地点だ。「リヴァロ」、そして「カマンベール」が、それだ。それぞれの原産地の村名が、チーズ名になっている。

村の入口に、案内看板がある。人口、わずか200人。牛の数のほうが、多い。目のところに、茶色や黒のぶちがあるノルマディ種だ。牛たちは、りんごが餌で、大好物らしい。 「小さなフランス」、世界で一番有名なチーズ・「カマンベール」は、ここが発祥地だ。

村の建物は、教会、カマンベール・チーズの昔ながらの道具類が展示され、その製造過程が説明されている博物館、お土産屋さんのほかに、3~4軒の家しかない。そのなかのひとつが、カマンベールをつくったといわれるマリー・アレルの生家。役場前の広場には、牛の銅像がのっそりと立っており、その役場の反対側の道の角に、マリー・アレルの像がある。そのカマンベール誕生秘話なんだが、どうにも伝説がひとり歩きしているのも、またおもしろいところだ。

ちなみに、現在のマリー・アレル像は、2代目。アメリカ人医師、ジョエ・クニリムの呼びかけで、募金が集まり、村の広場に建てられたようだ。 しかし、かのノルマンディ上陸作戦のときに、頭部が吹き飛ばされてしまった。そのため、アメリカ、オハイオ州ヴァン・ウェルトのチーズ工場、400人の従業員の寄付により、現在の銅像が広場に建てられた。

カマンベールは、AOCが制定される1983年よりずっと前から、全国的に有名になっていた。そのため、AOCに先んじて、そのカマンベールの名は、世界に出まわってしまった。そうした状況を受けてか、とうのカマンベールAOCは、単なる「カマンベール」ではなく、「カマンベール・ド・ノルマンディ(Camembert de Normandie)」に対して与えられることとなった。

「ああ、私はカマンベールになりたい! 」
とまでいわしめた、フランス人が好む人気No.1チーズだったカマンベールは、ここ数年、消費量が減少しているという。それに関して、ちょいとばかり、むかしの話だが、その「カマンベール・ド・ノルマンディ」 が、AOC(原産地統制呼称)の規定をめぐって揺れているという、気になる新聞記事があったのをおぼえているだろうか。

フランス食品振興会によると、
「カマンベール・ド・ノルマンディのシェア9割を占める2大メーカー、ヨーロッパ最大手のラクタリスと、老舗イズニーが、一時的にAOCを名乗るのを中止する」
と、発表。それについては、
「消費者の安全を考えて、生乳カマンベールの製造を停止した。生乳には、健康被害をもたらす恐れのあるバクテリアが含まれており、加熱しなければ除去できない」
というものだ。大人気ブランドの原料を、安全性の高い「低温殺菌牛乳」に切り替えたのだ。カマンベール・ド・ノルマンディは、もちろんフランスご自慢のノルマンディ地方原産AOCチーズだ。伝統的に無殺菌乳(lait cru)を使用して、伝統的な製法を守ってつくられている。

しかし、衛生上の観点から、両社はINAOに、37℃以上に加熱したものか、ミクロフィルターでろ過したミルクの使用も認めるよう要望していた。しかし、INAOは、AOCの規定を変更しないとの結論を出したため、AOCでの販売をやめることにしたという。衛生面にカンペキを期するため、というのがメーカー側の説明。

AOCの認証は、製品の信頼性における、絶対的なおスミ付きを与えるもの。そのAOCを脱退したのは、両社がはじめてだ。ラクタリス社のある取締役は、
「生乳カマンベールの製造中止は、苦渋の選択だった。消費者の安全が最優先されるなか、生乳カマンベールが、100%安全との保証はできない。当社の歴史的ブランドが、製造の不備により消えるというリスクだけは避けたかった」
と語っている。それにまた、イズニー社は、AOCの規制に反した「精密ろ過」も導入している。

これについて、「手づくり」の伝統を長いあいだ守ってきたギヨー(GILLOT)のB.ギヨーは、
「機械投入により発展してきた両社は、今度は大量生産に追いつかないとの理由から、殺菌牛乳を使おうとしている」
と非難した。

はやい話が、この二社は、殺菌牛乳と、精密ろ過の牛乳を使ったカマンベールもAOCに加えろと、圧力をかけたわけだ。つまり、表向きには、「食の安全性」をうたっているようで、実際は生乳では増産が見込めないため、ムリやり自分たちのやり方を認めさせて、売り上げアップをはかろうとしたというのが事の真相のようだ。

「もしそうなれば、真のカマンベールと、そうでないカマンベールの線引きがなくなる。チーズに関する文化も、知識も、消えてなくなるだろう」
とも、ギヨー氏は、つけ加えることさえした。同社は、チーズに混入した有害バクテリアが原因とされる病気が、子どもたちのあいだでまん延した際、チーズの製造を停止したこともある。以来、安全性テストを強化、それでも手づくりにこだわる。

無殺菌乳からつくるチーズと、殺菌乳製のチーズとの大きな差は、やっぱりその風味の違い。しぼったままのミルクには、雑菌も混じっている。が、それ以上に、チーズづくりに欠かせない乳酸菌が入っている。また、土着の菌も入っている。これらの菌はチーズとなったときに働き出して、その土地ならではの味をつくり出す。味わいはどんどん個性的になり、匂いもどんどん強くなっていくのだ。

だから、その土地らしい味を大切にするAOCチーズには、無殺菌乳を使ったチーズが多いというわけだ。なお、日本では、無殺菌乳でのチーズの製造は認められていない。

結局のところ、この問題は、すったもんだの末、ラクリタス、イズニーの事実上敗訴で決着したとはいうものの、今後に大きな禍根を残すことになった。

このように、大手チーズ会社がAOC規定に沿ったカマンベールをつくるのをやめてきており、AOCが押しつける伝統的な製法を変えさせよう、などというのが、現今、話題になっているそうな。

そんな問題が起こりつつあるなかで、フランスの品質保証AOCマークが、じつは消えつつあるのだ。2009年5月1日から、EU圏内でつくられた高品質チーズには、AOPマーク、EUの品質保証をつけることが義務づけられた。ところが、「Appellation d’origine(原産地呼称)」としか書いてない。でも、EUの品質保証であるAOPのマークがある。それは、AOCを持つノルマンディのカマンベールなのだと、わかるというわけだ。

それで、つまるところ、フランス産カマンベールには、4種類あることになった。まず一つめが、生乳を使うなど、伝統的な製造法の規格を守って生産される、AOCの品質保証があるチーズ。

二つめは、AOP(原産地保護呼称)カマンベール。箱にも、「Camembert de Normandie」と書いてある。正真正銘のAOCカマンベール。三つめは、「Camembert de Normandie」と書いてあるから、AOCのカマンベール。 でも、箱には、「Appellation d’Origine Controlee」ではなくて、「Appellation d’Origine」と書いてある。AOCのマークがないし、EUの品質保証マークであるAOPのマークもない。

四つめは、「Camembert de Normandie」と書いてあるAOC付きのカマンベール。 AOCのマークは見えないが、EUの品質保証マークAOP(Appellation d’Origine Protegee)のマークが入っている。

と、まあこんな具合だ。じつに、まぎらわしい。そのうえ、以前から、「ノルマンディのカマンベール」 と 「ノルマンディ産のカマンベール」 という表示問題もある。「Camembert de Normandie」とはノルマンディのカマンベールという意味なのだが、カマンベール・ロワ・ノルマンのように、「Fabrique en Normandie(ノルマンディでつくられた)」と書かれたカマンベールもある。

それに、AOCの権利を有する生産者は、所在地により指定されており、それ以外の生産者は、いくらていねいに手づくりしても「CAMANBERT DE NORMANDIE」とは名のれない。そういう生産者は、「CAMANBERT FERMIER (農場製)」と、銘をうっている。

参考;『チーズ図鑑』(文芸春秋編、刊)

■ マーラー 交響曲第5番嬰ハ短調

レナード・バーンスタイン/VPOで聴く。遅めのテンポ設定が、VPOの能力をいかんなく引き出した。交響曲の始まりとしては、異例である葬送行進曲の第1楽章。展開部は一転して、激しい。第2楽章、まさに嵐のような激しさと、静寂との対比が得もいわれない。陶酔的な静謐美に満ちた第4楽章「アダージェット」、ウイーン・フィルの弦の幻想的な美しさも,、最高。熱狂的なフィナーレなど、各楽章の性格が際立っている。

ルキノ・ヴィスコンティ監督の「ヴェニスに死す」(1971年)で使われて以来、その耽美的な旋律がポピュラーな音楽として、一気にブレイク。

当時マーラーが書いた手紙によると、アルマへのラブレターの意味でこの楽章を作曲したそうだ。秘めやかにしかし胸一杯の憧憬にあふれた主題は、やさしく抱かれているような不思議なぬくもりと気持ちよさをもった音楽に発展していく。マーラー・ブーム以前から人気が高く、しばしば単独でも演奏されている。

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