Wine & Dine! チーズのうんちくも...  ENOTECA楽天市場店

カマンベールなんて、欲しくない? (2)

cheese

カマンベール・ド・ノルマンディ(AOP)<再投稿>

ノルマンディ地方は、フランスの最北に位置しながらも、北大西洋海流の恩恵を受け、温暖で、多湿。夏は比較的涼しく、比較的温暖な冬とか、さまざまな条件が重なりあって、この地方では良質のミルクが生み出される。バター、生クリームとならんで、チーズの名産地としても知られている。

この太陽と、潮風を受け、湿気が育てたやわらかい草を食べて、牛は育つ。一番草がはえる春。二番草がはえる夏。その季節につくるカマンベールのほうが、干し草を食べる冬のものよりも、ミルクにコクがでて、グッとおいしくなる。


カマンベールの生みの親、マリー・フォンテーヌは、ノルマンディ地方の村、ヴィムーティエ近くのドアビル村(カマンベール村)に住んでいたとおもわれる農家の女性。1789年のフランス革命のさなか、パリ近郊の町ブリの僧院を追われ、イギリスに逃れようとやってきたアベ・シャルル・ジャン・ボンヴォスト修道士をはじめ、修道僧たちを村娘・マリーがかくまった、とされている。

かれは、そのときのお礼にと、モーの修道院秘伝のチーズ、ブリの製法を、マリーに残した。かの女は数年後、近くのカマンベール村の農家・アレル家に、その秘伝のチーズ製法をもって、嫁いだ、という。

なお、大きなブリーに対して、カマンベールが小さいのは、13世紀ごろからつくられていたといわれる、匂いも味わいも強烈なウォッシュタイプ、リヴァロの型を使ったからだといわれている。そんなブリーに似たチーズが、大変おいしく、
「カマンベール村でつくられたチーズは、月曜の朝市にくる」
と、カーンの街で、評判になったという。その一方で、カマンベールは1702年には、すでにヴィムーティエの市場で売られていたともいわれているし、またそのころのカマンベールは、現在の白カビタイプのものではなく、青カビタイプだったという説もある。

ともあれ、アレル家のこの美味しいチーズは、しばらくは名無しのまま。それが1855年、パリ~グランウィル間に、鉄道が開通。その開通式に、ナポレオン3世(ルイ=ナポレオン、ナポレオンの甥っ子)が出席した際に、マリー・アレルの娘が、チーズを献上するハプニングがあった。ちょいと山師的なナポレオン3世は、その美味しさに大変感動し、このチーズを「カマンベール」 と名づけたといわれる。

それでも、カマンベールはまだ名無しのまま。ローカル色はかわらなかった。それは、とりわけ、貯蔵性と、運搬に難があり、販売がなかなかむずしかったせいもある。そこに、カルヴァドス県のリデルが、画期的な発明品をもって、登場する。それは、経木、すなわちポプラ材のパッケージが、それ。

材質の軟弱なポプラは、木材の用にはならずとも、カマンベールには、じつにぴったりだったのだ。生木をはぎ、薄い板でつくった丸いパッケージは、型くずれからまもってくれたし、白カビに必要な酸素をコントロールし、過剰な繁殖をおさえてくれる。それがあってこそ、カマンベールの名前を一躍世間に、知らしめたのだ。

それと、カマンベールの製造者たちが集まった組合が、第1次世界大戦どきに、戦線の兵士たちにわがカマンベールを送った。その兵士たちが、戦争終了と同時に、生まれ故郷にもどっても、カマンベールの味わいをを忘れなかった。これがまた、あらたな市場を生み出すことにもなった。

さて、そのカマンベールの製造工程だが、ブリ・ド・モーとほとんど変わらない。ウシ乳をケトルに入れ、ゆっくりかき混ぜながら、温度を28度~32℃に上げていく。朝乳と、夕乳をあわせて、1日1回の製造である。

スターターを添加。ゆっくりカク拌し、32℃にたもちながら60分間、静置。90分後、レンネットを添加。固まったカードを、幅15~20mmにカッティング。伝統的な製法では、カードをカッティングせず、そのままルーシュ(お玉)ですくいとって、型づめをする。

金網のような水切りのできるものの上に、モールドをおき、そのなかに、ホエーごとカードをつめる。その型枠は、側面に小孔のある直径11.5cm、高さが13cmのアルミニウム製と、プラスチック製の2種類ある。「カマンベール・ド・ノルマンディ AOC」には、アルミ製の型枠を使い、それ以外の普通のカマンベールには、プラスチック製の型枠を使う。型枠の側面にあるいくつもの穴は、ホエーを出やすくしているのだ。

すのこの上で、一晩。数回反転させて、形を整える。つぎに、生チーズを型からはずし、ソルティング。その工程は、前日までに、カマンベールの型になったものにおこなう。塩を振ることで、チーズのなかの水分をより抜く。それに、雑菌の繁殖を押さえる働きもある。そして、保存性をもあげる。塩は、乾燥させ、細かい粒子になっている海の塩を使う。直接ふりかける乾塩法と、塩水に漬け、その塩分量のばらつきが少ないブライン法がある。

白カビ・スターターを滅菌水に懸濁して、スプレーするか、懸濁液にチーズを浸漬する。室温20℃で1日放置した後、10~14℃、湿度90%で、2~3週間熟成。カビの発生は、約1週間ほどかかり、この間、数回反転させる。

そして、合格したカマンベールだけが棚に並べられて、全体の重量を計る。ここで、1個当たりのカマンベールの重量が分かり、規格の範囲内であるかどうかを調べることになる。この結果から、職人さんたちのなかで、誰が最もルーシュでのカードの注ぎ方が良かったのかも分かるのだ。

熟成度には、4段階ある。白カビからでる酵素で、タンパク質を分離。チーズをなめらかにすると、白カビの役割は、終了。あとは、枯れながら、アルカリ性に変わり、アンモニア臭を発生。これが、チーズの熟成を調べるバロメーターになる。かすかに匂えば、中心まで熟成している。きつすぎると、熟成がすすみすぎたもので、外皮を取りのぞいて食べることになる。

もちろん、熟成の度合いで、味や香り、軟らかさが異なる。好みに応じた時期を見はからって、デザート・チーズとして利用するのが一般的。だが、そんなカマンベールには、コクと、うまみがあり、グラタン、パスタ料理など調理用に使われることも多い。もちろん、りんごと一緒に、オードブルとしてもぴったり。でも、そんな小細工なしで、そのまま食べるほうがいいのに決まっている。



まずは、「No.0」。カビはふんわり。純白だ。フレッシュな乳の香り。外から指で押したときに、まだかたい弾力があり、中身も白っぽく芯が残っている状態。仕込みから2週間。ついで、「No.1」。1週間熟成。マットは白く、しっかり。かおりも、ほのか。やや弾力性に欠ける。「No.2」。2週間熟成。マットはソフト。表面は、でこぼこ。弾力に富むが、やや未熟。

そして、「No.3」。3週間熟成。ふっくらしたでこぼこの表面に、麦わら色の斑点。熟成のピーク。フレッシュ・マッシュルームの香りが強い。中身は、クリームのように溶け出してくる状態になる。こうなると、カビも枯れて、香りはちょっとキツめ、塩味も強め。もっこりふくらみ出る弾力性。これぞ、パーフェクトだ。

それでも、あの独特の、古漬けのような臭いがガマンできる人は、品質保持期限が、ちょい過ぎでも、OK。その熟成だが、外皮が赤茶色くなり、香りも強まる完熟の状態はもちろんおいしいのだが、その中心に、白い芯がやや残った状態を本来の熟成とする見方もある。とうのカマンベール村では半熟が好まれ、パリでは完熟が好まれている。

その一方で、熱処理をして、カビの活性化を失わせ、缶詰にしたタイプ(ロングライフ・タイプ)のものは、品質が安定しているので、熟成を気にせず、購入してすぐにでも食べられる。もちろん、長期保存もきく(しかし、これはホンモノとは、まったく別もの)。

それと、カマンベールは熱を加えると、そのままで食べるのとはまた違った味を楽しむこともできる。カマンベールを大胆に半分に切って、焼いたカマンベールのステーキ風。さっくりと揚げて、中身がとろけだしてくるカマンベールのフライ。カマンベールの特徴を生かし、熟成の進み具合にあわせてさまざまな料理にしていくのも、カマンベールの魅力が存分に味わえる食べ方でもある。

さらに、ワインをふりかけ、火をつけるフランベで召し上がるのもおいしい。また、ノルマンディ産のこのカマンベールには、ぜひ本場風に、りんごのブランデー、シードルと合わせてほしい。それに関連して、ちょいとぜいたくなノルマンディ風カマンベール・フォンデュのレシピをひとつ。
1)丸まるのカマンベールの上面に、十字の切り込みをいれ、グラタン皿にのせて、オーブンに入れる。
2)カマンベールが溶けはじめたら、いったん取り出し、シードルをふりかける。
3)カマンベールが完全に溶けるまで、ふたたびオーブンに入れる。それと並行して、バゲットをかるくトーストする。
4)カマンベールを取り出し、皿に盛って、切り込みをめくって、バゲットを添えて供する。
というもの。

ワインも、その熟成の段階によって、微妙に違ってくる。まだ中心にチョーク状の芯がのこっている若めの熟成ならば、白ワインか、フルーティーな赤ワイン。中心までやわらかくなっている熟成がすすんだものなら、フルボディの赤ワインといった具合だ。 バゲット、カンパーニュ、クルミやレーズンの入ったライ麦パンとも、相性がいい。

参考;『チーズ図鑑』(文芸春秋編、刊)

■■ マーラー 交響曲第6番イ短調 「悲劇的」

バーンスタイン/VPOで聴く。このグラモフォン盤は、比類なきドラマティックさを持つ名演。スケールの大きさと、猛然と突き進む推進力で、ものすごい切迫感が味わえる。

第1楽章は、はやいテンポで打楽器が打ち鳴らされ、金管が咆哮して、非常に戦闘的。第3楽章アンダンテになると、さすがにウイーン・フィル。柔らかく絶美。激変するフィナーレの音楽への対処も、大胆にゆさぶりをかけ、大熱演。前半と、後半で、大きく評価の分かれた演奏。

マーラー自身が「悲劇的」という題名を与えたほど、厭世的な、そして激しい。しかし、緊張感のある一方で、第3楽章や、第1楽章の一部では、旋律は緩やかで、美しい。

管弦楽編成の大きさは、相当なもの。しかも、打楽器群では、ホルツクラッパー、鞭、ハンマーなど、個性あふれる打楽器がつかわれ、現代的な響きをかもし出している。まさに、中期の傑作。

タイトルとURLをコピーしました