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王さま、女王さま?

cheese

王さま、女王さま? 

(Brie de Meaux)
「ワインがつくられない土地はあっても、チーズのつくられない土地はない」
とは、よくぞいったもんだ。

長期保存を目的としたハード・タイプである”山のチーズ”がメインのスイスとちがって、フランスは山あり谷あり、平地ありと、各々の村ごとにヴァラエティに富んだチーズがつくられているのは、ご存知のとおり。

そんなチーズの一つに、白カビ・チーズの王さまと呼ばれる『ブリ・ド・モー』(AOC)がある。直径は、およそ40cm、厚さ3cm、重さ1.5kgほどの円盤形。たまらなく大好きなチーズの一つでもある。

パリ近郊のイル=ド=フランス地方から、シャンパーニュ地方にかけてつくられていて、まさしくフランスを代表するチーズである。とりわけ、パリジャンにはなじみが深く、一年中多くのファンにかこまれ、じつにうらやましい存在でもある。

カビ臭はほとんどなく、まろやかで上品だ。若く熟成したものが、食べやすい。ほどよく熟成すると、白カビが徐々に茶色に変化するものの、とろけるようなクリーミーさにあふれ、素朴で穏やか、それでいてじつに品のある味わいとなる。

むかし、王侯・貴族たちは、やわらかくてエレガントなこのチーズを愛した。とりわけ、アンリIVと、奥方のお気に入りだったようだ。また、フランス革命後、ルイXVIがギロチンでの処刑前、所望したともいわれている。年代は諸説あって不明だが、どうやら7世紀ごろには存在していたらしい。西暦774年には、かのシャルルマーニュ(カール大帝)も称賛したと伝えられている。
「余は、まさに極上の一品を発見した」

16世紀のヴァロワ王朝の宮廷では最高のおやつとして愛され、また、ルイ16世は逃亡中でもこのチーズを求めたことから「王様のチーズ」とも呼ばれていた。

また、このチーズのハナシになると、必ずといって出てくるのが、「チーズの王さま」の称号のお墨付きを得たウイーン会議の宴席でのチーズ・コンテスト、No.1の栄光だ。フランス革命及びナポレオン戦争後の国際会議でのこと。オーストリアの首相であったメッテルニヒは、
「ブリこそチーズの王であり、最高のデザートである」
という言葉を残したそうだ。ヤリ手のフランス外交官・タレーランの
「フランスも被害者だ。革命前にもどそうじゃないか」
と、正統主義を持ち出し、自国の権益を守るという画策もあって、”食の大国”・フランスは面目を保つ。

余談だが、フランス革命でブリーをつくっていた僧侶たちが、ノルマンディー地方に逃れ、この地でブリーの技術を伝え出来上がったのが、まさしく、別名「小さなフランス」とも呼ばれるカマンベールとなったともいう。

その名を冠するには、無殺菌で手作業で型入れ。まずは温めたミルクに乳酸菌を加えた後、レンネット(凝乳酵素)を加えて、カゼイン(主な乳たんぱく質)が凝固したもの(凝乳)からホエイ(乳清)を除去すると、カードができる。このカードを型詰め用の器具(ペル・ア・ブリ)ですくい、型(モールド)に入れ、水きりし、成形。十分に水分が排出されたら型から出し、塩漬けにする。

その後、その型からぬいたカードの表面に、粉末状の白カビを水で溶き、スプレーで吹きかける。1~2週間もすると、白カビにおおわれ、表面から中心に向かって、カビ酵素がタンパク質の脂肪分を分解。この白カビが表皮代わりともなり、中身のカードを守り、やわらかく熟成させる。温度・湿度が調整された熟成庫で、熟成。この後は圧迫を加えず藁の台の上で、ときどき裏返しつつ、通常は、4~8週間熟成。なんと1年間熟成ものもあるというが…、

上品で香り高い「ブリ・ド・モー」は、そのままいただく。バゲットとか、クロワッサンに切れ目を入れて、そのあいだに新鮮な野菜とをはさみこんで、食べてみては。

食後のチーズとしても、絶品だ。また、フルーツ、とくに酸味のあるフルーツとともに、デザート・チーズとしても、最高。まさしく、大きなチーズのお菓子そのものである。シンプルなクラッカーや、バゲットに乗せて。甘みのある果物のジャムやハチミツ、ナッツを添えるのもおすすめ。熟成したブリー・ド・モーは、濃厚な白ワインやミディアムボディの赤ワインとよく合う。シャンパンとか、上質な白ワインだと、ちょいとぜいたくすぎるかな。

価格は、そんなに高くはない。未熟なモノは、料理用だ。ちなみに熟成につれやわらかくなり、ワラのような香りやナッツのようなコクがでてくる。赤茶色の斑点が出てくるのも特徴のひとつ。表皮の香りが強く感じられたら皮をはずし、中のペースト状のところだけ召し上ってみてはどうだろう。

再投稿。

参考: 『チーズ図鑑』(文芸春秋刊)

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