ドン・ペリニヨン (4)

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ドン・ペリニヨン おまけ(4)

「『シャンパン 泡の科学』、この妙ちくりんなる本」
と、訳者がいうこの奇書は、
「王のワインであり、ワインの王」
であるシャンパンの、
「フルート・グラスのなかで、泡粒が生まれ、液中を上昇し、液面で割れて消えるまでのわずか数秒のプロセス」
を、科学的に解き明かしてくれている、まさしく「シャンパン 泡の科学」の本である。著者は、ランス大学の物理学助教授であり、モエ・エ・シャンドンの研究部門の顧問を務めている。(注;『シャンパン 泡の科学』 ジェラール・リジェ・ベレール著 立花峰夫訳 白水社刊)

では、
「なぜ注ぐ前のシャンパンの瓶内では泡が立たないのか? 」
答えは、長い熟成によって、エア・ポケットが水分によって満たされてしまうから。

泡核形成地点にくっついたまま大きくなっていく泡は、浮力が増していき、最後には繊維から離れていってしまう。しかし、小さなエア・ポケットは依然として繊維の内側に残ったままである。そこから、また新しい泡が形成されるのだ。

シャンパンに溶け込んでいる二酸化炭素分子がなくなり、泡の形成が止まるまで、このプロセスは繰り返される。

泡のサイズは、その泡を産んだ繊維の大きさと一致。それに、泡形成は液体に溶解している二酸化炭素の量によっても変わって来る。最も活発な泡形成地点からは、最大で1秒に30もの泡が産まれる。

しかし、時間が経つにつれ、二酸化炭素が減っていくと、一番小さな小片から生じていた泡は、やがて必要な臨界半径を超えることが出来ず、泡形成地点からは、泡は出てこなくなる。最終的には、一番大きなものが残ることになる。

泡が誕生して、泡形成地点から放たれると、優雅な列を成して、液面に向かって上昇する。その最中に泡は大きくなっていく。約10cmの旅を終えた直径10マイクロメートルの泡は、1mmに近い直径になっている。つまり、堆積にして100万倍も大きくなる。

泡の成長も、液体中の過剰な二酸化炭素分子による。上昇中に見られる猛烈な成長は、溶解した二酸化炭素が、泡の界面から泡内部へと絶え間なく蒸発していくために起こる。

この泡のサイズが、シャンパンの品質のバロメーターになる、その要素の一つが、シャンパンに溶けている二酸化炭素の総量である。というのも、打たれたコルクは完全な気密な栓ではなく、セラーで熟成させるうちにごく微量の二酸化炭素が抜けていく。

数年後、抜栓の際、熟成プロセス前と比べて、少なくなっているので、若いシャンパンほどは泡は立たない。

「泡粒が小さいほど、ワインの質はよい」
の決まり文句は、この事実から正しいといえる。シャンパンらしく洗練された風味や、まろやかさが発達するためには、熟成は必要である。それは、風味が全般に複雑だということではなく、泡立ちが繊細だという補完的な性質のため。

「泡の上昇は、なぜ起こる? 」
その答えは、アルキメデスの原理として知られる浮力が働いているのだ。しかし、同時に泡粒はまた、泡の周りを取り囲んでいる液体分子の抵抗も受けている。

この抵抗は、泡の上昇を阻み、速度を遅らせている。上昇中に大きくなると、浮力もまた大きくなる。浮力は、泡の堆積と正比例。大きくなっていく泡に対して生じる液体抵抗では、浮力の増大に立ち向かうには不十分で、泡は上昇するに連れて、加速する。泡粒と、泡粒とのあいだの距離も開いていく。

「重力ゼロの場合、シャンパンの栓を抜くと、どうなる? 」
それはというと、二酸化炭素の泡ができて成長はするが、泡形成地点でつなぎ止められたまま、そこから離れることができない。瓶内で泡粒が大きくなっていき、あっという間に液体に置き換わる。と、瓶からあふれ出すのだ。

グラス内での泡の速度は、重力と関連。地球上での重力の加速度は、9.8メートル毎秒/毎秒。例えば、木星だと、地球の約100倍。よって、グラス内で一番小さな泡がえられる場所なんだそうである。

もちろん、シャンパンは純粋な液体ではない。水分以外にも、アルコール、溶解した二酸化炭素分子のほか、多数の有機化合物が含まれている。この有機化合物の分子には、水に溶ける親水基と、水に溶けない疎水基があり、界面活性剤と呼ばれる。

それは、泡の表面に引っ付き泡の内部を満たしている気体部分に疎水基を位置させる。すると、粟の周りを取り囲んでいる液体と、疎水基の部分が接触しない。それが、やがては泡の表面を覆ってしまう。

この気体の泡をおおう界面活性剤の役割は、グラスの壁から浮力によって、泡が離れ、液体分子をかきわけ、進むときに重要になる。吸着された界面活性剤はある種の保護膜を、泡の表面につくることで、泡を固くする。その量が多いほど、その液体中を上昇する泡への抵抗力も大きくなる。また、完全に覆われてしまう頃には、上昇速度は遅くなる。

ただ、完全に覆われてしまうほどいかない。立ち上る泡粒の周囲を流れる液体が、泡の周りを固めている界面活性剤を下方に洗い流す。

シャンパンという飽和状態の液中を上昇するとき、泡は絶えまなく膨張する。すると、泡の表面も広くなっていく。界面活性剤が吸着可能な新たな表面積が生まれるということ。

結果、界面活性剤が泡の表面を固めるペースよりも、泡の膨張するペースが大きかった場合、泡は界面活性剤に覆われた表面を自分できれいにすることができる。この比率が大きくなる場合、泡の表面は界面活性剤の膜で完全に覆われ、泡が固くなる。

シャンパンの界面活性剤の量は、リットルあたりたった数ミリグラム程度。その泡が非常に速く膨れ上がるため、表面が固まることが出来ない。液体中を上昇する泡は、界面活性剤の膜のおかげで、安定し、整然とした列を成し液面に向かう。小さめの泡は、球体をしていて、まっすぐ立ち上る。

「牽引、キス、とんぼ返り」という現象が起こる場合がある。先行する泡粒は、その上方にある液体をかき分けて進まねばならない。しかし、すぐ後に続く泡粒は抵抗が少ないために、もっと速く進める。「キス」のあと、いつも泡粒同士が弾むわけではない。合体し、一つになってしまう場合がある。

泡の生涯の最後のステップは、液面ではじける。泡は液中のグラス内壁についている不純物によって生まれ、1~5秒後には、自由表面に達する。

表面にいたった泡の状態は、飛び出させようとする浮力と、泡の頂点部分の大きさに比例する表面張力のバランスによって決まる。泡はとても小さいため、浮力は完全に表面張力に凌がされる。

自由表面ににある直径1mmほどの気体の泡は、表面からわずかに顔をのぞかせるような状態。泡粒のほとんどの部分は、表面より下にある。

液面に表れた泡は、表面張力によって進み、泡のてっぺんである泡の帽子にできた穴は、秒速約10メートルで広がり、弾けるプロセスは、20~30マイクロ秒の間しか続かない。

この限界の厚みを、「限界厚み」と呼び、役100ナノメートルの厚さである。泡の頂点部分が弾けた後、1mm近い直径の空洞が液面表面に残る。その弾けた後、自由表面にうがたれた泡の空洞部分からは、高速の液体の噴流が立ち上る。

泡の破裂により生じた上方への噴流は、次にレリー・プラトー不安定と知られる波が、噴流によって生じる。この不安定性によって、液体噴流が壊れ、「噴流滴」と呼ばれる水滴に分かれる。

バラバラになって、それはさまざまな形になる。泡が割れた後、起きる表面の励振のため、弾けた泡を中心として、自由表面を水面波の列が広がる。撃ちだされた噴流滴は、液面から数センチの高さに達し、その速度は秒速数メートルという速いもの。

グラスに注いだ直後の数秒間、液体表面で1秒間数百個の泡が破裂し、直径100マイクロメートルという微少な噴流滴も数百個発射される。その噴流滴は、霧状になり、さわやかに楽しげに飲む者の顔を刺激する。

液面で弾ける泡は、風味成分の放出において、重要な役割。アルコール、一部のアルデヒドや、有機酸といった炭酸飲料に含まれる芳香成分の多くは、界面活性剤として機能。

液体中を上昇しながら膨張する泡は、界面活性剤で、かつ芳香を放ちもする分子の小型エレベーターのようなもので、上へ向かう際にこうした分子を引き連れて動く。そのため、徐々にこうした分子は、シャンパンの液面に集まっていき、液中よりもはるかに高い濃度になる。

自由表面で破裂して、噴流滴が発射された際、滴が星のように空気中に広がって、飲み手の鼻先に達する。この香り高い出来事は、舌の上で感じられるシャンパンの味わいを強調し、飲み手の官能的経験を豊かにする。

シャンパンの泡が弾けるときには、多くのエネルギーが放出される。このエネルギーは液体噴流をつくるために使われるが、もう一つ、小さな音という衝撃波の形で、空気中に放出。

あわ立ちの響きは、あぶくに覆われた液面で生じる個々の「パチン」という音が、数千集まってできたもの。それも不規則で、一本調子にはならない。その官能的経験が、飲み手にさらに豊かなものとなる。

シャンパンの液面で、泡がつぶれる際に、泡が互いにくっつきあった状態になる。最初の泡がつぶれてしまうと、グラスの表面は泡の層で覆われる。割れた泡と、隣り合った泡が順番に割れていくことがない。しかし、圧力によって、変形はする。

シャンパンの入ったグラスの表面に見られるこの花びら形の構造物内部では、周囲を別の泡で取り囲まれた泡がつぶれる際に、かなり強い剪断応力が生じる。

グラスに注いだ直後には、勢い良く発泡が見られる。泡がつぶれるときには、数千もの金色の泡が空気中に放たれ、シャンパンの魅惑的な香りや風味を鼻に送り届けてくれる。しかし、時間が経つに連れ、泡はだんだんと割れなくなっていく。数十秒も経つと、微少な噴流滴でできた液面付近の雲は見られなくなる。

界面活性剤は幾千の泡が立ち上ることによって、液面に運び上げられ、そこにとどまる。結果として、界面活性剤は液面にある泡の帽子を覆いつくし、そこに膜を張る。グラスのうち壁に沿って出来るコルレットがなくならないのは、シャンパンに含まれるタンパク質のおかげ。

しかし、脂肪が接触すると、瞬時にフィルム上に広がり、同時にフィルムをつくっている液体部分を引っ張りあげる。そうなると、泡のフィルム部分がとても薄くなってしまい、泡が割れてしまう。口紅も同じ。脂肪の分子が含まれているので、最初の一口ですぐに、泡が割れてなくなってしまう。

それでなくても、気体状の二酸化炭素分子が液面にある泡の帽子部分の液体フィルムを透して、空気中へと蒸発していく。結果として、オストワルド熟成によって長持ちしている泡はしぼんでいき、割れることなく消えてしまう。

また、グラスに注いで長い時間が経つと、液面にまだ残っている泡は、液体運動によって、動く。そう、泡が勝手にゆっくりとした二次元の泡を作る。この泡の量は、グラスの内側が円形であるため、回転運動になる。

寒冷な気候と、石灰岩を多く含む厚い白亜質のの土壌が、シャンパンに独自のスタイルと、個性を与えていると信じている。冷涼な気候下で、軽くすっぱいワインが生まれ、スティルワインとしては、低品質。最高級のスパークリングワインとしては、完璧。白亜質の土壌がブドウに酸味を与え、このおかげでたっぷりの風味成分が長い熟成期間中に発展していく。

温暖化によって、ブドウ樹の生育期間が短くなると、果実に含まれる糖と、酸のバランスが大きく変化。ひいては、シャンパンの官能特性全体と、熟成能力にまで変化を及ぼす。

温度と、気温が上昇傾向にあることは、ブドウ畑に、ボトリティス・シネレア菌・カビ病の蔓延のリスクが高くなる。カビ病が増えると、ベース・ワインに含まれるタンパク質が大きく変化し、これは泡立ちまで変化をおよぼすのだ。

■■飲酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。お酒は楽しくほどほどに。

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