ずいぶんと昔だが、
「白はアルザスだな」
と、ひとり悦に入ってアルザスのリースリングを愛飲していたころがある。
同じリースリングでも、ラインガウとこうも違うものかと思いながら飲んでいたものだ。他のフランス・ワインなんかと比べると、とりわけ安く、そしてうまかった。
そんな頃、どういうものか他のチーズには目もくれず、「マンステール」ばかりを食べていた、という記憶もあるんだ。そう、まだ小遣いに不自由がない時だったなあ。
フランス北東部、戦乱により数奇な運命によってもてあそばれた歴史をもつアルザス地方は、特異な風土と文化を持つ。南北に走るヴォージュ山脈の東側に位置し、”ワイン街道”として知られるブドウ畑が連なっている。そんなところに、この地方唯一のAOCチーズがある。
アルザスでは、『マンステール』。ヴォージュ山脈の西側、ロレーヌ地方では、「ジェロメ」と呼ぶ。
チーズの歴史は古く、7世紀初頭にまでさかのぼることができる。われわれは、アルザス・ロレーヌ地方と一括りにして呼んではいるが、このチーズもまた、「マンステール=ジェロメ」と呼ばれることもある。
「マンステール」の名前の由来は、修道院というイミの”Monastere(モナステール)”からきている。ベネディクト派の修道僧がマンステールの谷に修道院を建て、牛を放牧し、チーズづくりを始めた。
薄い黄色っぽいオレンジ色の表皮。ベタベタしていて、強い匂い。それでいて、中身はといえば、なめらかで口当たりはまろやかである。そう刺激もなく、おだやかな味わいだ。もともと、ウォッシュは嫌いではない。
ヴォージュの山並みは、チーズの自然の熟成室であり、そこにはまたショウムと呼ばれる高地の放牧地があり、青々とした草々とともにこの地の特有な高山植物も咲き誇っている。この自然の恵みにあふれた地で、スカンジナビア産の頑強なヴォージェンス種は、良質のミルクを生み出す。
伝統的な製造方法でつくられるマンステールは、アルザスでは「ミュンスター」と呼びならわされ、チーズ小屋のことを「マルケルリィ」、チーズ製造の請負人のことを「マルケール」と呼ぶのも、伝統的な呼称の一つかもしれない。
昨日搾乳した夕乳と、朝乳の入ったケトルをカマドに移し、38℃に温める。レンネットを添加し、ゆるやかにカクハン。しばらく待ち、ジャンケットをカットするタイミングをはかる。
チーズ・ハープをつかみ、弧を描くようにして細かくカット。癒着を防ぐため、ホエーに漂っているカード切片をかきまわした後、その切片が収縮。水切りザルであるパスワルですくいとり、型詰めに入る。
それから、上下反転の繰り返し。翌朝まで、流し台に放置。その後、チーズ職人に、出来上がったばかりのチーズを受け渡す。3日にわたって、塩はすりこむように1日一回。ついで、発酵室へと運ばれ、塩水で表皮を洗う工程に入る。
始めの週は、三回、順に二回、一回と減らしていく。何度も熟成中に洗うことにより腐敗を防ぎながら、熟成させていく。そのためか、特有の強い匂いを発するようになる。
サイズは、直径13~19cm、高さ2.4~8cm、重さ400~500gの円盤状。もっとでかくて、800gのものもあるという。プチ・マンステールはといえば、直径が7~12cm、高さは2~6cm、重さ120g以上の円盤状である。その多くは、フェルミエ製である。
濡れたなめらかな表皮に照りがはいってきたら、それは食べごろ。ねっとりと、濃いミルクの甘みがある。また、ツウは熟成されたマンステールの表皮にこそ、味わいがあると言うが、どうなのかな? 外皮はうすく、食べてもOK。
ほとんどは料理用で、茹でた熱々の皮のついたジャガイモにのせたり、サラダと食べる。山間に住む人々にとっては、チーズとジャガイモは欠かせないものなのだ。ほかには、グラタンとか、キッシュも。
パンなら、レーズン入りのライ麦パンと合わせてみたら、どうだろう。なんといっても、マンステールを熟成させるとき、ライ麦の上で熟成させるところもある、と聞いたものだから。(笑)
地元では、ゲヴェルツのマールで洗ったもの(「アンジ」)とか、ビールで洗ったもの(「フルール・ド・ラ・ビエール」)もあるらしい。また、あのクミンシードをまぶして食べていると聞く。まあ、そんなマンステールも販売されてはいるが・・・、ワインと合わすのには、やはりムリがある。
ウォッシュは、赤と合わせるのがフツーだが、このマンステールだけは白と合わせたい。とりわけ、あのライチの香りが特徴のゲヴェルツがいいというが、実はこれ、苦手。ボクとしては、リースリングとか、ピノ・グリだな。甘口の白も、いいと思う。
参考);『チーズ図鑑』(文芸春秋編、刊)
(チーズ/ウォッシュ マンステール フランス 2007/09/24再編集)
♪ 今夜はお気楽にジャズ化されたミュージカルの大傑作『My Fair Lady』をiPodで聴く。
主役はむろん、あのいまやクラシック界の巨匠、アンドレ・プレヴィン。ウエストコースト・ジャズ全盛期、ジャズ・ピアニスト時代の超ヒット作。
ジャズ・ピアノの名盤である。何と言っても、楽しい。小気味がいい。聴きやすくて、実にスマート。でも、そこはプレヴィン、知的で華麗なジャズを披露してくれている。
原作はバーナード・ショウの戯曲「ピグマリオン」。ブロードウェイのヒットミュージカル「マイフェアレディ」のおなじみ有名ナンバーをピアノ・トリオで演奏。リーダーは名手シェリー・マン。発売されるやジャズでは珍しく大ベストセラーとなり、ヒット・チャートでも上位を独占。
それと、もう一枚。才気あふれるプレヴィンがレッド・ミッチェルと組んだピアノ・トリオの傑作である『King Size!』もいい。おなじみのスタンダード集ばかり。名曲「It Could Happen to You」を聴いて欲しい。やはり、ウエスト・コーストらしく小粋で、ちょいとしゃれた感覚の演奏。♪