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カルヴァドスとシードル<おまけ>

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カルヴァドスとシードル<おまけ>

林檎酒も、なかなかいける!

英雄・シャルルマーニュ大帝。ここワインの世界に対しても大いに発展に貢献したとされ、今日もなおブルゴーニュ地方、ボーヌの北には王の持ちものだった畑と、銘酒の名前が残っている。ご存知、白ワインの逸品、王のなかの王、あのグラン・ヴァン・「コルトン・シャルルマーニュ」だ。ワイン好きであった王は、夫人に「赤」を飲むとご自慢のヒゲが赤く染まるからといわれ、もっぱら「白」を飲んでいたという。

しかしながら、普段はというと、王はシードル好きということもあって、ごくごくとガブ飲みをしていた、ともいう。そんなシードルだが、確立した時期が不明であって、その歴史はといってもワインとくらべると、じつにあやふやなのだ。文献によると、王の統治時代に、シードルを認知したようなのだ。王はブドウ以外の果実酒の製造技術者を領国に集める布告を出し、ここにはじめてシードルの製法に関する記述を残している。

前回、「カルヴァドスとシードル(1)、(2)」というタイトルで書いてみたが、どうもカルヴァドスのことばかりでシードルは脇においていたみたいで、あらためてシードルのことを気のむくまままとめてみよう。

シードルづくりは、通説によると、歴史はワインと同じくらい古く、ヨーロッパでは紀元前からおこなわれていたようだ。“果実を醗酵させてできた酒”を意味する、ラテン語「シセラ(Cicera)」が語源。リンゴのさわやかな香りと、飲みやすい口当たりが特徴。

甘口、中辛口、辛口とに分類される。香りは、リンゴのフレッシュなフルーティーさが特徴で、甘口はすっきりとやさしい。中辛口や辛口の味わいは、軽やかな苦味やキレも感じられ、食事によく合う。色は、白く透明なものや、赤みがかったものなどバラエティ豊か。リンゴを材料としているので、ビタミンやミネラルなどが豊富で、ワインと同様にポリフェノールをも含む。

アルコール度数は2〜8%。ワインの度数と比べると、低い。発泡しているタイプと、していないタイプ、微発泡のものなどがあり、種類も豊富だ。

4世紀ごろには、ローマでシードルという言葉が使われ、9世紀にスペインにおいて、リンゴのお酒を意味するものとして定着。11世紀ごろまでには、そのスペインからフランス北西部のブルターニュ地方に製法が伝えられ、独自の製法が確立されたようだ。この地域の気候や土壌はブドウよりリンゴ栽培に向いていたためか、ノルマンディー地方とともにシードルの名高い産地として定着した。

ただ、惜しむらくは、シードルはいつも2番手だった。フランス人にとって、フランスのものじゃなかったのだ。それは、今も変わらない。ワインが高級酒であり、農民向けの安酒とみなされているのだ。なににもまして、フランスはブドウからつくるワインありきなのだ。

スペインでは、シードラという。シードルしか出さない伝統的なお店「シドレリア」、そこでの「エスカンシアール」は見ものだ。注ぎ手がグラスの真上でボトルを傾け、真下にあるタンブラーに、短時間で派手に注ぎ込むといったパフォーマンスである。2〜3センチほど、即座に飲み干せる量を注ぐのだ。そうすることによって、注がれたシードルは、空気を含み、口当たりがよくなっているのだ。

他方、ブドウの栽培ができなかったイギリスでは、幸いにもリンゴの栽培に理想的な気候風土だったためか、イギリス西部で盛んになった。サイダーと呼ばれ、発泡性のシードルが広く親しまれている。「サイダー王国」の名に恥じず、世界一のシードル生産国であり、消費国でもある。伝統のパブでは、パイントグラスになみなみと注がれ、ビール感覚で楽しまれている。

アメリカでは、一度は低迷した、が、シードルが近年あらためて注目を集めており、クラフトビールならぬクラフトサイダーをつくる醸造所が増えている。とくに発泡性のものはクラフト・ハード・サイダーと呼ばれ、注目を集めているのだ。

ちなみに、日本でも、青森や長野など、りんごの名産地での生産が盛んだ。とりわけ、「日本シードル発祥地」・青森・弘前市には、10軒以上の生産者がいる。弘前といえば、いわずと知れたりんごの名産地である。

1953年、弘前市の吉井酒造の社長が欧米を視察した際に、その製法を学び、生産をはじめた。その後、ニッカウヰスキーがそれを引き継ぎ、弘前工場を建設。シードルづくりを大々的にやってはみたが、販売不振により断念した経緯もある。それでも、最近では、国内の醸造メーカーが世界各地の品評会で受賞し、知名度も上がってきている。

まずは、リンゴだ。シードルの原料となるものと、生食用のものに分けることができる。ヨーロッパでは、大量生産に適したシードル用リンゴが主体。それらは、皮も厚く、1個の重さが100g前後と小さく、酸味が強いことが特徴。そして、酸度、タンニン量により以下の4タイプに分類されている。「ENOTECAonline」によると、

Sweet、Sharp、Bitter Sweet、Bitter Sharp。リンゴの酸度が4.5g/l、タンニンが2%をさかいに、両方ともに少ないリンゴをスイートとし、甘みが強い。

一方、 酸が多く、タンニンの少ないものをシャープ(酸味が強い)といい、また、酸が少なくタンニンの多いものをビタースイート(甘味と酸味がある)。酸、タンニンともに多く含まれるのをビターシャープ(酸味と苦味がある)と分類。

糖分の強いリンゴはアルコールの元となり、酸味の強いリンゴはシャープな味わいをつくり、苦味の多いリンゴはシードルの厚みのあるボディをつくるというわけだ。

このようにヨーロッパではシードル用リンゴでシードルがつくられている一方で、日本では生食用のリンゴを使用してシードルをつくる生産者が大半を占めている。生食用のリンゴは香りが高く、糖度も高く、酸の少ないものが多いのが特徴。「ふじ」が 日本で一番栽培されている品種で、この品種でつくったシードルは軽いタイプに仕上がる。ほかにも、比較的馴染みのある品種からシードルが生産されている。

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 シードルの工程
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9月から11月にかけて、収穫。それから、しばらくの間、屋外で外気にさらしてさらに熟成させることになる。単一の品種のリンゴだけが使われることもあるし、複数の品種を組み合わすこともある。それに、リンゴが樹から落下するのを待って収穫することもある。それは、糖度の高い熟したリンゴを使用するためだ。

リンゴは丹念に選別され、洗浄、そしてミキサーやハンマークラッシャーなどの機械によって、皮ごと粉々に砕かれる。むろん、果皮にはポリフェノールや天然酵母など、さまざまな成分が含まれるため、果皮は剥かない。

破砕したリンゴをプレス機にかけ、果汁を絞る。プレス機には、水、油圧、ベルトプレス、スクリュープレスなどがある。このプレスの方法によっても、味わいは変わる。

タンクに入れる前の果汁の糖度や比重、PH値などを測定し、綿密に計算をおこなった上で酸度調整や、亜硫酸塩の添加などをおこなうことになる。そしてペクチナーゼという酵素を添加して、ペクチンやタンパク質を沈殿させ、澄んだ果汁が上澄みとなるようにする。

リンゴの外果皮に取りついている野生酵母が、果汁に含まれる糖を養分として、自然にアルコール発酵がはじまる。伝統的な製法では、この「自然発酵」が主流であったが、酵母以外の雑菌が繁殖して、失敗する可能性があるため、現在では専用に純粋培養された酵母を「酒母」として添加。

やがて発酵過程で茶褐色に変色したリンゴの果肉が、発酵にともなってアルコールとともに発生した二酸化炭素の気泡が表面につくことで、浮力を得て液面に浮かび上がってくる。このとき、リンゴの糖分をどの程度残すかによって、仕上がるシードルの辛口度が決まる。

シードルは発酵期間が長いほど辛口となり、短いと分解されない糖分が残るため甘口となる。また、発酵期間が長い方がアルコール度数は高くなる。

その後、2〜4週間程度で一次発酵が終わるが、比重測定やアルコール分析をおこなって、発酵が終わるタイミングを見計らい、滓引き(おりびき)をおこなう。滓引きとは、タンクに入ったアルコール飲料をしばらくの期間放置し、滓を沈殿させ取り除く作業。

澄んだシードルのベースを別タンクに入れ、糖や酵母をさらに加え、瓶詰めし、温度管理した上で瓶内で二次発酵。1ヶ月ほどで発酵は終わり、さらに3〜6ヶ月ほど熟成させ、出荷となる。

さて、その瓶詰めだが、タイミングは生産者や商品により異なり、発酵途中のものを瓶に詰めて熟成庫で熟成期間を経て出荷されるもの、発酵終了後に糖分と酵母を追加して瓶内で二次発酵させるもの、発酵後に炭酸ガスを注入するものもある。

ボトルの形状は、国ごと、産地ごとにさまざま。白ワインのボトルやビール瓶が使われるが、シャンパン用のボトルが使われることもあり、色もシードルの種類や産地によって異なる。一般的には、中瓶(500ml)が主流で、まれに小瓶(330ml)があり、缶に充填される場合もある。

シードルは、好みにもよるが、基本的には冷やして飲むといい。10度以下がちょうどよく、とりわけ発泡性のものは、よく冷やした方がおいしい。また、ワイングラスやシャンパングラスを使って飲むと、より香りや風味を楽しむことができる。

アイルランド人はビアグラスを使い、フランスのブルターニュ地方の人が食前酒(や食中酒)として飲む場合は、陶製のコップが使われたりする。

さらにシードルを楽しむために、合わせて食べたいチーズや、スイーツがある。それと、あまり知られていないが、ワインより合う料理が多い。肉、とりわけ豚肉などの肉料理、意外や魚料理とも相性がいい。じっくり煮込んだ肉料理には、ワインよりおいしいソースになることうけあい。

おすすめのチーズは、カマンベール。カマンベールはというと、シードルの生産が盛んなノルマンディー地方のカマンベール村でつくられるのは、ご承知のとおり。香りが穏やかで、口当たりは、クリーミー。そんなにクセもなく、やさしい味わいで、シードルの爽やかな味わいにピッタリ。

また、甘口のシードルであれば、ブルーチーズと合わせるのもおすすめ。チーズの塩味が、シードルの甘みを引き立てるのだ。続いて、スイーツとのペアリング。

お楽しみは、同じリンゴを使ったアップルパイ。特に発泡性のシードルを合わせるのがおすすめ。バターたっぷりの生地とリンゴの甘みを、爽やかな酸味とシュワシュワとした泡が引き立ててくれるのだ。また甘口のシードルは、バニラアイスにかけて一緒に食べると贅沢な大人のデザート。

もうひとつ、暖かい季節なら、氷とリンゴのスライスを入れてフルーツカクテル風に。寒い季節には、シードルとシナモンを小鍋で温めて、ホットワイン風に楽しむこともできる。

※ 参考図書; 「エピソードで味わうワインの世界」(山本 博 著、東京堂出版 刊)

■■飲酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。お酒は楽しくほどほどに。

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