ドン・ペリニヨン (3)

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ドン・ペリニヨン おまけ(3)

「『シャンパン 泡の科学』、この妙ちくりんなる本」
と、訳者がいうこの奇書は、
「王のワインであり、ワインの王」
であるシャンパンの、
「フルート・グラスのなかで、泡粒が生まれ、液中を上昇し、液面で割れて消えるまでのわずか数秒のプロセス」
を、科学的に解き明かしてくれている、まさしく「シャンパン 泡の科学」の本である。著者は、ランス大学の物理学助教授であり、モエ・エ・シャンドンの研究部門の顧問を務めている。(注;『シャンパン 泡の科学』 ジェラール・リジェ・ベレール著 立花峰夫訳 白水社刊)

「泡粒が小さいほど、ワインの質がよい」とは、シャンパンを評価する決まり文句になっている。小さな泡粒ほど、大きな泡粒よりもゆっくり上昇するし、発泡が長時間持続する。と、同時にグラス内部のきらめきもデリケートなものになる。

もう一つ、高品質である古いシャンパンは、熟成が進むうちに、泡の元である二酸化炭素をある程度失って、泡はごく小さくなる。どうも、これらのことが、ワインの品質に結びつけたようだ。

ワインづくり一般において、中心となる化学反応は、アルコール発酵である。ルイ・パスツールが、1837年反応式を定義。ブドウ糖が、酵母によって代謝され、エタノールと、二酸化炭素に分解される。この第一次発酵によって生まれるアルコール(エタノール)の量は、およそ11%。ここに達すると、すべての酵母菌は死滅。

シャンパンは、この段階ではまだ白ワインに過ぎない。最初の発酵で生じた二酸化炭素は、空気中に拡散。

発酵完了後、ただちにシャンパンづくりの核となるアッサンブラージュへ。40数種類にものぼる異なるスティル・ワインをブレンド。エノロジストの下、一種類のシャンパンをつくる。これが、第二次アルコール発酵の「ベース・ワイン」となる。

1リットルあたり約24gの糖分と、酵母、そして酵母の栄養分をガラス瓶につめ、仮栓。次いで、12~14℃の低温セラーに置かれると、2度目の発酵がゆっくりと進む。栓で密封しているため、二酸化炭素は逃げることなく、泡という状態でなく、ワインに溶解した状態にある。

数ヶ月で酵母菌は死滅して、発酵が完了。その後も、シャンパンの熟成は続けられる。このプロセス中に、酵母の細胞膜が破れ、ワイン中に溶け、さらに分解され、あのシャンパン香である「トーストの香り」が生まれる。この熟成期間が長いほど、風味がリッチになり、価値も高くなる。

貴重な二酸化炭素を失うことなく、酵母菌の死骸を瓶から取り除くため、次の工程はルミアージュ。ワインの寿命を考慮して、短いと思われるワインは、まだ若いうちにルミアージュがなされる。1日に二回、穴の開いた板を組み合わせた特別の棚を使い、瓶の口を下に向けていく。その瓶が完全に倒立した状態になると、ルミアージュは終わる。

デゴルジュマンの段階へ移行。瓶口の死んだ酵母菌の澱を閉じ込め、凍結させる。仮栓をはずすと、ガスの圧力によって、氷が澱ともども瓶から飛び出してくる。その時、少量のワインが失われるので、補填することになる。

最後の工程であるドザージュ。糖分と、古いワインの混合液であるリキュールを、各瓶ごとに足していく。もちろん、このリキュールの配合は企業秘密。シャンパンの甘辛は、ここで決まる。

この後、シャンパン専用のコルクが打ち込まれ、ワイヤーが巻かれ、ラベルが貼られて出荷ということになる。

これでやっと、シャンパンを楽しむときがやってきた。まずは、グラスだ。今では、フルート・グラスが一般的になったが、1700年~1900年代まではクープがファッショナブルだった。

クープには欠点があった。まず、底が浅く、口が広くて不安定。とうぜん、シャンパンがこぼれやすくなる。その点、フルート・グラスは、液面に立ち上る泡のラインが長くなり強調される。また、液面が狭く、泡がはじける時に放たれる風味も強くなる。ほかにも、細身であるため、泡がよく保たれ、ぬるくなるのもゆっくりだ。

古いことわざに、
「耳が喜ぶと、舌は喜ばない」
というのがある。そう、抜栓は、静かなタメ息とともに。さて、栓を開ける前、コルク下の二酸化炭素のガス圧は、約6気圧。このガス圧と、平衡状態にあるシャンパンの液中に溶けている二酸化炭素の分子は1リットルあたり、約12g。

栓が抜かれると、ヘッドスペースにあった気体の二酸化炭素のガス圧が突然下がる。すると、瓶の外の気圧に比べ、多すぎる量の二酸化炭素が溶けているため、二酸化炭素分子のほとんどが、空気中に放たれる。

標準的なフルート・グラスだと、均衡を取り戻すためには約0.7リットル分の二酸化炭素が放出。これを泡の数に換算すると、泡の直径を500ミクロンとして、グラス内の二酸化炭素の体積総量を、泡一粒のあたりの平均体積で割ると、1100万もの泡粒が放出される。

それでいて、グラスでは二酸化炭素分子の約20%しか、泡の形では放出されない。残りの80%は、シャンパンの、グラス壁と接していない液面、自由液面から直接放出される。

たとえば、飲まずに泡がでなくなるまで放置しておくと、約200万個の二酸化炭素の泡がグラス内から立ち上がったことになる。

泡形成にいたっては、一定の大きさを持つエア・ポケットがあらかじめ存在しなくてはならない。エア・ポケットがあることで、二酸化炭素分子が泡核形成に対するエネルギー障壁に打ち勝って、泡へと育っていく。

それは、グラスの内壁に付着している不純物から、泡核が形成されるのだ。その地点の大半は、細長く、中は空洞の円筒状のセルロース繊維で、紙や布から剥がれ落ちたもの。これら繊維は、空気中から、また洗浄後の拭きあげの際とかが考えられる。そう、シャンパンの泡は、グラス表面を汚しているチリから生まれるのだ。だから、チリ一つなく完璧なグラスには、泡は立たないのだ。

■■飲酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。お酒は楽しくほどほどに。

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